『rico、話そうか』
裏庭に積まれた自分の肉体の残骸にショックを受けたらしかった。
呆けていた…いや、狂いかけていた。
半笑いの表情のまま、視線の固まった目からは涙だけが滴っていた。
『rico?』
『僕はね…悪い事をしたとはさらさら思ってないんだ』
あのプライドの塊だったような女傑が反論しないなんて。
『わがまま、そう、他人に言わせれば単なるわがままになる』
『だけれど…ricoよ』
拳に力が入った。
『僕は…ただ、あの頃が欲しかった』
ああ、なんて事だ。 僕の声は途中から枯れてしまった。
これは、魂の奥底に封じ込めてきた弱音みたいなものだから。
『ricoよ…男は泣いてはいけないと、いつか僕に言ったね。
それは何故か? お前はいつからか思想家のような事をほざきやがって…。
自分は女だから泣いて、頼って、人を繋ぎ止められるとでも思っていたか?』
『涙の有無と言うのはな、個々の繊細さに起因するんだよ、たかが2種類の染色体の問題で片づけるな』
そう、「あの頃」と言う言葉を発した瞬間、僕の涙はとめどなく流れ始めた。
『僕が思うに…涙は心から溢れる血なのさ』
『………』
『さっきから何を呆けてやがる、よりによって俺のたった独りの親友を!
よりによって自分の血縁者を相手に選んだ、下衆極まる売女め!!』
ricoの頬を…不健康な体一杯の力を込めて張り飛ばした。
ricoは何も言わない。
ただ「じぶん」の残骸に突っ込んでいた。
『は…ははは…』
『俺もバカだよ、あんな奴らに関わって…』
『でも』
『「あの頃」俺は…幸せだったんだ…』
『お前らにとっちゃ、どうだか知れたもんじゃないがな…畜生、畜生のきょうだいめが!』
『そんなに魅力的なのかい、きょうだいと言うのはさ。 僕は独りだから…皆目解らないね』
いや…違う…。
『博士?』
『ああ…ジェミ…ははははは』
『どうしたの…ricoさんまるで生体反応がないみたい』
『なーに、殺しても死なないような図太い女さ…。
すっかり失望したらしい、おかげで、今度こそ「あの頃」の舞台が完成しそうだ』
『へぇ、ついに成功が見えてきたんだ!』
『ああ…そうさ…。
今度は永遠に終わらない「あの頃」を造るんだ。
もちろん、次はお前も一緒だ』
『うわあっ、嬉しい! 博士が嬉しいと、私も嬉しい!
だって博士はいつも哀しい目をしていたもの』
『ああ、そうだとも。 鋭いね…』
『ね、ジェミ』
『はい』
『僕はある学校で今の知識の基礎を学んだんだけれど…』
僕は空を見上げた。
ああ、雲が晴れかけて…きっともう6月も終わってしまったのだ。
『さっきの僕は非科学的な事ばかり並べ立てていたよ。
やっぱり、僕には学者様なんて元から向いてなかったのさ』
ああそうか。
もう…あの躍起だった6月も過ぎて…。
そして試験管に宿った偽りの命も、そろそろ胎動を始めた頃である。
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