【雨音の宴】


 誠ちゃあんっ!!
 わたしは、叫んだ、筈だった。 でも声が…出ない…。
『スコルピオは、君にも既に毒の接吻をしているよ…』
 私の実弟、ううん、世界で誰より愛してる男性を足蹴にして…
 眼から無色透明の液体を流しながら、総てを征服した気でいる、あの嫌な笑み。
 あんなに可愛くて無邪気だったセージ。
 今はバサバサになった髪、ヤケなのか雑に染めて半分が紫色になってる。
 いつの間にかピアスなんか着けちゃって。 男の癖に!
 そうよ、ここまで見せつけられたら…私でも肯定せざるを得ない…。
『あの頃のセージは、時間というものに殺された亡き者』だと。

『君には、こいつほど酷い神経毒は注入されてない。
 せいぜいだるくなって喋れなくなる程度さ』
『………』
『それもじきに回復していくよ…君の身体は大切だからね』
 高熱が出た時のような、悪寒がした。
 わたしの…わたしで何をしようって言うの?
 わたしの身体、が…誠ちゃんも酷く打ちのめされてる…怖いよ。
『…ま、こいつは限り無く致死量に近いくらいだけどね』
 そんな! 誠ちゃんは貴男の親友…少なくとも子供の頃は!!
『僕の好きな人を寝取るうえに、血族同士で毎晩毎晩繋がり合うだなんて、変質者さ』
 渇いた涙の筋を残したまま、彼はいやらしい…そして虚しい笑いを浮かべた。
 わたしと誠ちゃんを、馬鹿にしないで! 何を想像してるのよっ!
 無礼にも…程があるのよ、セージ!!
 叫んだ。 でも、声は出なくて…悔しいよ。
『ねえ博士、なんだかこの人かわいそう』
 気になんか止めてなかった、セージの造った空っぽの女だなんて、悪趣味すぎて。
『うん…でもいいんだジェミ。
 この人達にはちょっと怒りをぶつけたいだけさ、昔…とても辛いことがあった』
『そっか』
 そうよ、そうして、何でも言うこと聞いて自分に依存する女が欲しかったんでしょう!
 いかにもアンタらしいわよ、いつまで経っても中身は子供の、最低のゲジ男なんかには!
『でも、気が済んだらたっぷりと原料を採取させてもらう…
 僕の大事なこの人達を「作り直す」ためのね』

 ………。

 彼の言う神経毒か、絶望のどん底で惚けてしまったのか、会話がよく聞こえない…。