【走馬灯】


 人を好く、近づきたがる、『友達』になりたがる。 そうして気に入った相手を手に入れる。
 何も持たない空虚な心の持ち主は、餌を投げられた野犬のように友愛にすがり、懐く。
 仲間恋人大親友。
 幸せな人生の方程式に不可欠な、大事な要素さ。

 けれども、人気者の素質を鼻にかけて、安易に日陰者と関係を持つのも考え物だぜ、誠ちゃんよ。
 くくく、自慢のスコルピオの神経毒で身悶えしてやがる。

 あんたは優等生で、どこでも人気者だった。 いつも仲間に囲まれて、可愛い姉貴までついてきて。
 僕は内心いつもお前に嫉妬してたんだ。
 ricoを独り占めしてるお前と…お前みたいなイイ親友を山ほど持ってるお前に。
 …どう思おうが構わない。 僕はお前の取り巻きにさえ、嫉妬してたんだ。
 僕が、俺こそがお前の一番乗りの、唯一無二の大親友なんだってな。
 …もしかしたら、俺はお前に…いいや、過ぎた春の過ちだ。
 僕の『焦がれた』誠二は既に死んだのだ、全ては時間によって。

 学校も変わって付き合いと研究に追われ疎遠になったお前を諦めた僕は、心底ricoを求めていた。
 でも…現実はあんまりに残酷だった。
 お前は手前の実の姉までも僕から奪った!
 お前とricoは、こんな空洞だらけの僕の心を、潤したかと思えば、あっと言う間に全部取り上げた。
 …なあ、誠ちゃんよ?

 無様にもがく、かつて世界で一番信頼した相手に、僕は最高の嘲笑を贈る。
『この、ド変態のシスコン野郎がよっ!!』
 倒れた亡き友の腹を力一杯蹴り飛ばす。
 後ろでricoが声を枯らして何かをわめいていた。
 うるさい、黙れ、この淫売婦め。

 きっとお前等には考えても、解る日は来ないだろう。
 ふと僕はこの静かな隔離世界での阿鼻叫喚の中、ぼんやりと中空を見つめた。 耳を澄ますと雨の音だけが聞こえていた。

 僕の脳内信号が勝手に、僕の目からとめどない涙を溢れさせた。

 …ありがとうよ。
 永い夢をありがとう。
 芝居に相応しい幕切れを、ありがとう。
 僕はもっともっと遠くへ行くよ。

 僕の組織(なか)から産まれた美しい腫瘍にして、僕の半身、生まれ変わり。
 憧れのGEMINI(双生児)と共に。
 今度こそ終わらない幸せのために。
 そうだ…その笑顔だ…ジェミニ…。
 大荷物などいらないんだ。
 実験器具一つのトランク持って、今すぐこの地獄の小屋を出て、ほうら、あの美しい紺碧の夜明けの世界へ。
 ジェミニ、おいで。
 いつものキスをしてくれ。

 …ふふふ、でも。
 旅立つ必要なんかないんだ…。
 幸せを自分の手で造り出すための全ての原料は、今ここに揃ったのだから。
 ああ、そうさ! これでいいんだ! 全部…僕の思い通りに運んだのさ!
 何故だろう。 いや、きっとそうだ。
 止まらないこの涙は、嬉し涙さ。