『つぎ、博士の番〜』
僕はジェミニに少々凝ったカードゲームを覚えさせた。
ジェミニは常に学習に飢えている、複雑なルールだって半ば機械的に記憶してしまった。
『………』
古びたカード、使い込まれて痛んだカード。
こいつを見たら、また思い出してしまったよ…。
僕より一つ、正確にはほんの11ヵ月だけ年下の男の事を。
僕の…僕だけの親友だと思っていた、最低の男。
『博士、カードだして』
はっと我に返る。
『ね、博士、どうしたの…?』
『ごめん…』
『博士、なにか悲しい事思っていたの?』
両手にしていたカードの束をテーブルに伏せ、ジェミニが僕を心配そうに見た。
『お前は本当に僕の半身みたいだね』
『?』
『双子って事さ』
そうさ、僕はかつてあいつにも同じ事を思っていた。
偶然にも僕と同じ名だった、あいつ。
元々こんな風に狂う運命だった…陰に取り付かれていた僕をも受け入れて、友達になってくれたあいつ。
いつもricoと共に居て…ああそうだ、遥か遠い日は三人一緒だった。
今は、そうさ、みんな死んだ…。
『ジェミ、この遊びはやっぱり止めよう…』
『え〜っ? どうして? 私、厚い説明書全部覚えたのに!
ヒトは寂しいからこうしてふたりでゲームをするんでしょ?
悲しいからヒトは遊びをするんでしょ? なのに何で』
『…そうだ。 でも、やっぱり…。
僕にとってこの遊びはあんまりに楽しかったから、だから…胸が痛くなる』
『…楽しいほど、くるしくなる遊びがあるの?』
『ああ』
『それはなんていうの』
『…思い出さ』
ジェミニは何も言わずに俯いた。
この抽象的な言葉について考えていたのだ。
僕は狂おしい思慕と焼け付く憎悪を抑えつけながら、テーブルに置かれていたカードを片付けた。
『「誠(せい)ちゃん」よ、やっぱり死人の記憶は忘れるべきだな』
失敗作の肉片と、摘出された歪(いびつ)な「腫瘍」の積み上げられた裏庭で僕は火葬をした。
古びたカードは、無邪気だった僕達の象徴だからだ。
だがこの煙は、決して消えずに僕の胸の中と言う地獄を彷徨い続けるんだ。
…メッセージはricoに届いただろうか?
お前は…いいや、お前達はさながら生ける屍だ。
早くここへ、僕のラボへおいで。
お前達を美しかったあの頃に生まれ変わらせてやるから。
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