【抗い】


 rico、最愛の友が死んだ。
 rico、僕の想い人だった君もとうに死んだ。
 rico、君の思う可愛い弟のような少年もとっくに死んだ。
 全ては時間に殺された。

 僕は小さなメッセージカードにそれだけを記すと、封筒にしまい、再びricoに宛てた。

 万物は時間に殺されてゆく。
 生物も非生物も、この世界に存在する限り、酸化現象に蝕まれ崩壊していく。
 この世に生まれたその瞬間から悲劇が始まる、酸素と時間がある限り、優しいふりをして残酷極まる法則からは逃れられない。
 青臭いと言ってくれてもいい、狂っていると罵るのも構わない。
 僕は酸化が、老化が一刻も早く進まぬうちに、絶対的な運命(さだめ)に抗う秘法を掴んでみせる。

『…くそっ!!』
 また失敗である。
 首から下が上手く発現しない。
 肺腑も露わな醜い肉片を、苛立った僕は床に叩き付けた。
 培養液と体液が混ざり合い、腐りかけた木の床に染みていく。
 ここからまた、ゲジや百足が沸いてくるのだ。

 息を整えてから、ふっと驚かせてしまっただろうジェミニを気にかけた。
『博士、こわい』
『だろうね、ごめんよ。
 でも、僕がどれだけ頑張っても、駄目なんだ、汚い肉片ばかりができるんだ。
 お前のような完璧な…完璧な作品ができないんだ』
『博士』
 肩を落とす僕の、伸び放題の前髪を彼女は冷たい指で掻き分けていた。
 …涙をぬぐおうとしていた。
 そして、いつもの作法で永い接吻をする。
 愛情表現。

『ありがとう、ジェミ。 落ち着いた』
『うん、あきらめないで』
 彼女は完全なる純真無垢の存在だった。
 それは無論、ヒトではないからだ。
 彼女は無智、いや、無垢故に全てを笑って受け入れる。
 この世の最果てに他ならない、山奥深い朽ちたる山荘と僕の姿が、ジェミニの世界の全てだった。

 僕は崩れかけの肉塊に防腐処理を施して、裏庭に放り投げた。
 全く、いつの間にやらこんな廃棄物の山になったんだ。
 僕は失敗の都度、ウンザリすると同時に焦燥を覚えていた。

 原料が、足りない─。