博士は、ある日私に素敵なものをくれました。
『これは、失敗作なんだけれど…どうかなぁ?』
それはとっても不思議でした。
光に透かすと中心の緑色がキラキラ光る、柔らかな珠(たま)。
私は博士の持っているご本を読んだりして、お勉強をするのが好きです。
『博士、これは宝石って言うんでしょ!』
そうして集めた知識の中では、宝石と言うものに一番近かった。 ううん、こんなに綺麗なんだから絶対そう!
『…くく、あははは。 そうだね、これは宝石だよ。
計画に使うつもりだったのだけど、肝心のはめ込む方が上手くできないんだよね。
でも、不思議と眼球造るのは得意なんだ』
後半はよくわかんないけど、博士は楽しそうでした。
『これね、とても綺麗にできただろ?
だからちよっと細工をして紐を付けてみたんだ。 それでどうするって訳じゃないけど、無くさないだろ。
無論、防腐処理はしてある。 固めると質感を損なうから、あえて生のままだけれど…』
『あのう〜博士、後半が難しくってわかりませーん』
『む、そうか。 ついつい自慢してしまったよ。
ともかく、それは至高の芸術品に違いないし、柔らかいから、潰さないよう気をつけて』
『はぁーいっ』
この宝石は、身に着けずに大切に仕舞うことにしました。
でもやっぱり綺麗なので、目に見える所にかけておく事にしました。 とっても綺麗。
やがて、この緑色の宝石を眺めていて、ふっと思いました。
…軽はずみにくれたけど、きっとこれは博士にとって、すごく大事な物のような、気がして。
この深い深い緑色の奥底には、博士のせつない気持ちがこもってる。
きっと、きっと。
後で、博士が一生懸命読んでいたご本を覗いてみると、これは人間のお目目だと知ってびっくりしました。
私達の目ってこんな風になってたなんて。 すごい。
『くり抜くとこうなってるって事だよ』
ふぅん。 すごい。
そして一体これは誰のお目目なんでしょう。
博士に聞くと、私のお目目はガーネットと言う石ころからできたみたい。
なんで堅い石から、柔らかいお目目ができるのかなあ。
不思議不思議。
私達のお家の裏には、肌色の塊が積み上げられています。
博士は、失敗作だからあんまり見るなよと言うけれど、よく見るとそれも、ご本に載っていた人の身体のどこかしらでした。
なかなか、ヒトを組み立てるのは大変なんだなって思いました。
それで気になりました。 私は気がついたらここにいて博士と暮らしているけれど、どうやって出て来たのかなあ?
『えーとね、ジェミニの原料をこれに入れる、それで秘密の製法で培養させたらジェミニが産まれたんだよ』
そう言って見せてくれたのは、いつも何か入れていじっている試験管でした。
ええっ、こんな小さなガラス管から!?
不思議不思議。
博士が、私は奇跡から生まれた最高傑作だと言ってくれました。 なんだか照れちゃうな。
私は生まれた時から博士が大好き。
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