第二話『切断』


 真っ赤な僕の部屋。

 壁も床も机もベッドも全部真っ赤だ。
 どこもかしこも真っ赤にぬめってる。
 今この瞬間も視線を赤い飛沫がかすめてくんだ。
 綺麗だ、素晴らしい。
 こんな部屋ならもう外で何されても平気だ、しあわせでいっぱいだもの。
 あの温かい液体が…溢れてく、湧いてくる、飛び散る、流れる、いつまでも。
 恐怖なんかない、あまりに甘くて美しくて。
 今日はやり過ぎ? でも、キッカケになった仕打ちなんかもう忘れてしまった。
 ただ、これだけの血でなければ洗い流せないぐらいの、屈辱─いや、いい、された事なんか、いいんだ。
 これでいい、これでいい、僕が望んでやまない世界が、完成したじゃないか。
 何故もっと早く斬(や)らなかったんだろう。
 まだだ、もっと赤く! 赤く! 赤く! 赤く! 全てを赤に染め上げるんだ!
 もっと噴き出せ、乾いてしまうよりもずっと早く。
 愉快なほど血は止まらない、身体も冷えてくる、でもそのおかげで僕は夢の中にいるみたいにフワフワとして…。
 服まですっかり血まみれじゃないか、土砂降りの、血の雨だなんて素敵だな。 最高にしあわせだよ。

 いつまでもいつまでもいつまでもこの赤の世界が在り続けたら…。
 もっと、もっと、もっと!
 全てを赤く塗り潰せ! 僕の体中の血液で!
 
 …不意に。
 何故だろう、これは、涙?
 ぱっくりと裂けた首筋、赤の世界。 そんな中で押し出されたみたいに一筋こぼれた涙。

『僕…なんて…』

 笑ってた、涙を流しながら。 でも半笑いだった。 血はずっと出てる。
『あは…ははははは』
 平気だよ…。
 躯も、心も、壊れてなんかいない、よ…。
 また明日、明日、変わらない、痛めつけられて、晒し者にされて、笑われて、ずっと同じ日を繰り返し…て…。
 あ…あ、また明日も学校だ…準備、しなきゃ…あっ、宿題がまだ…、行かなくちゃ、明日も…。 学校へ………。

 …眠いや…。



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