川口が好きだ。いや、自分の生活圏内での川口が好きだと言うべきか。気が付けばここに引っ越して来てもう6年半になる。最近では以前からずっと住んでい たような、そんな錯覚さえ起こしそうになる。あまり目新しいもののない、退屈な日常の風景。そう思っていた。
しかしこのところ、色んな人がうちに遊びに来ては、「下町っぽいところがいい」と言ってくれる。特にオレの住む本町1丁目通りは昔の宿場町と言うことも あって、見る人が見ればなかなか面白い通りなのだった。古い銭湯はあるし、昔ながらの豆腐屋、八百屋、肉屋があり、蔵のあるこれまた古い酒屋の前でおじ いさんがひなたぼっこしながら酒を飲んだりしている。ないのは魚屋くらい。晩ご飯の材料もこの短い通りで用意できてしまう(それを発見したのはきょうけ んなのだが)。昔の宿場町だからといって、変に観光地化されていないところもいい。レンガ造りの発電所跡があったり、明治時代の建物も残っている。すこ し歩けば芝生の気持ちいい荒川の土手に出られる。買い物に困れば駅前に出ればいい。
でも最近まであまり身近なそういった環境を見直すことなんてなかった。そして今、人の視点を通してこの街の良さをまた発見している。できれば次もこの近 辺に住みたいなあ。不満があるとすれば、この、日の当たらない部屋くらいだから。