「月刊MOE99年3月号 特集・Pinguは世界中のおともだち」掲載
ピングー&ピンガ2人はきょうだい

この原稿をやり取りしていた時のFAXに「お二人とも上の子なんですよね。妹は妹で大変なんですよ…」というコメントが入っていた。妹の立場に思い至らなかったのは不覚。そこでここでは、担当編集者による「妹の言い分」つきでお読みください。

妹はわがまま、兄はがまん

● ピングーとピンガって、何才ちがいなんだろ。

◆ ピンガ誕生のときピングーはもう一人前だったよね。ピングーは卵の殻を割る手伝いをしたいんだけど、じゃまもの扱いで。無事に生まれて家族写真を撮るとき、ピングーったら背伸びして胸はっちゃってさ。

● でもさ、ピンガってすぐにピングーと遊べるようになるんだよね。

◆ いつまでも赤ちゃんじゃあ、相手にならないもの。

● ピングーが友達と遊ぶとき、ママに言われてピンガも連れていくんだけど、仲間にいれてあげないことがあるね。

◆ やっぱりピンガをいれると無茶な遊びはできないし。で、二人で遊んでいたら、ピンガがいなくなっちゃって大騒ぎになるんだよね。

● 氷に大きな穴があいていて、そこにピンガの赤いマフラーだけが残されて……。ところがピンガは先に家に帰っていて、心配して泣きながら戻ったピングーに あかんべする

◆ なかなかやるんだよね、ピンガも。妹って、やっかいな存在でもあるんだよ。どうしても振り回されるのは兄のほうになってしまう。「チップとチョコのおでかけ」でも、チップはなんべんもがまんしてチョコのわがままを聞いてるでしょ。

チョコは一度たりともゆずらなかったね。年上の男の子と、年下の女の子。力の強い弱いがハッキリしていて、同情されるのはいつも妹のほう。兄の心の葛藤は無視されがちだね。

◆ チップが最後に泣いてしまうのは、チョコに負けたのではなくて、自分のなかの葛藤があふれちゃったんだよね。

● チップもがまんばかりじゃなくて、「たのしいホッキーファミリー」のヘンリーみたいに意地悪してるかな。

◆ そりゃしてるでしょう。ぼくも小さい子と遊ぶときについ意地悪したくなるんだけれど、子どもはこっちの意地悪をクリアして少し成長するような気がする。詭弁ですかね

やったりやられたりの日常

● 小さい子をからかうと単純におもしろい、というのはあるね。ムキになって怒ったり、泣いてる顔もかわいかったりして。ホリーみたいに仕返しできるといいけど、やられっぱなしはたまらない。

◆ やったりやられたりが日常なんだと思うよ。ホッキーファミリーは家族ぐるみでのやったりやられたりのエピソード集だね。「けいことおねえちゃん」もそういう日常のヒトコマを描いた絵本。けいこちゃんはお姉ちゃんを怒らせてしまって遊んでもらえない。でも「ごめんなさい」を言うんじゃなくて、お姉ちゃんが落ち着くまで押し入れにかくれて様子をうかがっている。

● どうやって仕返ししようか、どうやって仲直りしようかと小さいなりに考えるんだね。そろそろイイかなと思ったら、今度は自分が、お姉ちゃんにあわせて折り紙につきあったりして。

◆ 「おりがみ、あんまりすきじゃないけどします。」ってね。 妹は妹で、気を使ってるんだよ
ところであのコッコさんも妹なんだよね。「コッコさんのおみせ」にお兄ちゃんがでてくるでしょ。

● コッコさんはおみせやさん、お兄ちゃんはかいじゅうごっこ、
お父さんは新聞、お母さんは料理って、あの家族はそれぞれが自分の時間を過ごしてる。

◆ あれはきっと日曜日のお昼まえの時間だよね。それも遅めのお昼。けんかとか妹のわがままとかを描いたほうが絵本になりやすいだろうと思うけれど、こういう何でもない時間を描いて、しっかりと家族の雰囲気が出ている。それこそ、描かれていないやったりやられたりの部分まで想像できるくらい。

きょうだいがもらった時間

● やったやられたもいいけど、ピングーとピンガがいっしょに無茶する話も楽しいね。ピンガもかわいい顔して、結構いたずら。おるすばんの話が好きだな。

◆ パパとママが出かけた夜にやりたい放題するんだよね。

● パパとママが玄関を出たとたん泣きまねをやめて、ウッシッシって。私も弟と二人だけのおるすばん大好きだったな。親が帰ってきたら無礼講がバレて必ず怒られるんだけどね。

◆ 「ピングー」を見ていると、お話の最後で、大人も子どももいっしょになって笑っていることがよくある。ピングーたちが子どもらしくいたずらしたり意地悪したりできる場所を、パパやママや他の大人たちが支えてるんだなって思う。

● 子どもだけで悪さできる「大人の目の届かないところ」がたくさんあるし、ときには大人もいっしょになって悪ふざけする。そのいっぽうで、大人は仕事も家事もして、しっかり子どもを守ってるから、子どももしっかり遊べるんだね。

◆ きょうだいってさ、成長するにつれて趣味も合わなくなってくるから、 親友や恋人よりも遠い存在になっちゃうこともあるでしょ。でもね、親が死んだときに、いっしょに思い出を語りあえるのはきょうだいだけだと思うんだ。

● やったりやられたり、悔しい思いをしたり、羽のばしたり。親からもらった「あの時間」を知っているのは、自分の他にはきょうだいだけだもんね。


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