いばら美喜    「ある遺伝」
小島剛夕     「雪の法善寺」
北風三平     「底」
古賀しんさく    「蘇った奴」

自殺するためにスキー場に来た男は谷底に落ちるが、そこでおじいさんと娘
に命を救われる。娘は口が聞けないようだ。おじいさんに挨拶しようと
したところ、グラっとしたと思ったらそのまま倒れてしまった。すでに死ん
でいたのだ。何を思ったか「フフフ」と笑いながら外におじいさんの死体を
運び出し穴を掘って埋めようとする女、その穴にはこれまた無数の骨が。
驚く男は谷底に監禁された事に気付く。脱出を試みても、滑り落ちたり
少女に笑顔で雪玉を投げつけられて落とされたり(その時の少女が実に
小悪魔的で可愛い)でどうにもならない。飼い殺しのような日々の中で、男
はあのおじいさんのメモを見つける。メモには「あのオシの少女は若い男の
精気を吸って若さを保っている。若かった自分ももう老人だ」と書いてあった。
恐ろしくなった男は意地でも脱出してやろうと何度も崖を上るがそのたびに
笑顔の少女に落とされてしまう。徐々に老人化していき少女の愛玩物となろう
かという時に、男は少女の身体が異常に冷たい事に気付く。
さては!と思い火を近づけると少女はみるみる溶けていってしまう、その最期
なって少女は口を開き「あなたがとっても好きなの。一緒にいたいの。離しは
しない」と言い残して死んでしまった。

開放された男は無事脱出して、久々の太陽を満喫しようとしたところ足元が
おぼつかない。いつの間にか雪の身体になってしまっていた男は水となり消え
てしまった。

他の作家が書いたら恐ろしい女に見えるであろう少女をこんなにもかわいらしくみせてしまう
北風先生にしか出来ない表現力に脱帽。
大人になるとしばらくして顔がひび割れてしまう遺伝を持つ女と結婚
した男。ある日、現実に女の顔がひび割れてきてしまい、それを悲観し
た女は顔を焼いて自殺してしまう。残されたのは二人の子供の女の子。
男はいずれ自分の娘もあのようになってしまうのではないかと思い、昔
恩をかけた老人に公園で別の子供と交換するように命令する。そして手
に入れた女の子はすくすく育ち文句の無い娘になる、気残りなのはその
娘が実の娘でないことくらいだ。時折「この娘が実の娘であったらなぁ」と
思っていたところにあの老人が十年ぶりに現れて「実はあの時、すり換え
はしていなかった」と告白する。男は怒るどころか感謝して、「やった、あの
よく出来た娘は自分の実の娘なんだ」と嬉しがるところに娘の「ただいまー」
の声。振り返ると娘の顔が・・・