ドラマ版って?

〜NHKで放映された実写版について、DVDから相違点をレポート〜


─はじめに─
まず、ここで取り上げるのはトキワ荘生活がメインの『青春編』についてです。
『実写版』ことドラマ版『まんが道』は、1987年夏、NHK銀河テレビ小説の枠で20分毎・15回に区切って放映されました。
CMが無い為、放映時間の総数は300分ジャストとなっています。
内容が細切れではあるものの、DVDで見る分には切りが良くて見易いです。
また、このテキストは原作を読了してドラマ版に関心を持った人向けに書かれていますので、ネタバレ解禁となっているので注意してください。






─目立つ相違点・設定と世界観の違い─

・満賀と才野のルックスが反転している
解説…これが最大の違いであり、予備知識が無いと最も戸惑いがちな部分です。
(ドラマの主人公に眼鏡などNG、もれなくイケメンでなければならないの法則、らしい…)
私は事前に見聞きしていたので解りましたが、名前が入れ替わっている程度の認識で何とかなるぐらいかと思いました。
性格づけも基本的に名前と反対なのですが、『眼鏡でチビの才野』は引っ込み思案な辺りが原作の満賀、生活を支えるしっかり者と言う部分は原作の才野の特徴です。
『長身で明朗な満賀』は、惚れっぽく直情型な辺りが満賀のそれであります。 ただ、漫画への並々ならない情熱は原作版の才野の要素です。
このように、やや設定が混ざっている所がある事も認識しておくと、より入りやすくなると思います。

・隣の美人姉妹の出番が9割増し
解説…原作では引っ越し直後にお世話になる程度の接点しかありませんでしたが、ドラマ版では重要なマドンナとして描かれます。
何せデビューから間も無いアイドルの森高千里・女優の高木美保(実は後者についてはよく知りません(^^;)をキャスティングしたとあって、ふんだんに登場します。
これは良いとして、やはり原作ファンの視点で見ると、あまり原作に忠実と言えない(かと言って原作ではチョイ役なのでくっつく事も無い)ために煩わしく感じる人もいるかも知れません。
ドラマ版は『ドキっ!漢(おとこ)だらけの児童漫画大会』な世界観にはなっていません。 ちなみに、石森・赤塚氏のポロリシーンにも立ち会ってしまいます。(大笑)
なお、よく見たら苗字が『桐島』から『幸田』に変わっていました。 ここで更に別人感があるかも?

・基本的に常夏
解説…これは、上記の違いに比べればあまり気にしなくても良い点だと思います。
放映期間が夏だったのもあってか、夏以外の季節の描写は非常にあっさりとしており、夏の時間だけが濃密に描かれています。
ジャケットからも解る通り、ドラマ及び、ドラマの制作者が見た『まんが道の象徴』は夏の風景だったと言う事でしょう。

・時代感はあまり無い
ヒロインの髪型などから、やはり80年代の空気の方が強く感じられます。
劇中でも昭和真っ盛りの演出はあるものの、原作ほど『50年代(昭和20年ぐらい)』な空気がバリバリ伝わってくる所はありません。
上野駅に関しては、古めかしく見えるような演出がなされているようです。(一番変わってしまったシーンなのか、あまり写りません)

余談ですが、女性キャラと言えば最も原作に似ていたのは『ちび若丸』担当のあの人でした。(笑)

・出版社は仮名
解説…これは、まあ、NHKと言うかドラマなら当然の改変かも知れません。
が、声に出すと非常〜に紛らわしい字にされているので、かなり頑張っていると言えます。 看板もわざわざ作っているのです。
具体的に挙げると『集英社→集明社』『講談社→講論社』『秋田書店→秋山書店』と言う具合。
担当者の名前やキャラは原作に忠実なものとオリジナルキャラと五分五分です。

・台詞に関して
解説…まず、まんが道ならではの名台詞…ンマーイ!とか各種奇声(笑)とか、そういったものは無難に削除され普通に喋ります。
これは、個人的にそのまんま再現していたら痛くて見ていられないだろうなぁ…と心配していたので、良かったと思いました。
その代わり、ドラマ版ならではの特徴として注目すべきは、全編に渡って主人公の2人が富山弁で喋る事でしょう。
『〜だが。』『〜だのう。』『やらんばい(やるぞ)!!』などなど。
私にはこの富山弁がどれ程正確なのかは解りませんが、スタッフの中に『方言指導』と言う役割の人がいるので、かなりしっかりやっていたのだと思います。

・原作のエッセンスは、皆無なの?
解説…ここまで読んだ人が不安に感じているとは思いますが、決して皆無ではありません。
描いている作品のタイトルや原稿はそのままですし、ちょっとした出来事から原作版の2人のイラストも登場します。
(恐らく、あの絵は描き下ろしだと思われます)

・なんか変な人が…!?
解説…実は、100%創作のオリジナルキャラが出て来ます。 しかも、かなり話に絡んできます。(^^;
吉幾三の演ずる田舎っぺキャラ、とだけ触れておきます。 相当なインパクトです。
こういった人物も、原作ファンにとって好き嫌いが別れますが、認識しておけば許容できるかと思います。

─登場人物の相違点、存在感など─
※かなり踏み込んだ内容についてはネタバレ防止のため隠しておきました、これから視聴する人はお楽しみ、読みたい人のみ反転させてください。

・テラさん
重要人物の一人だけに、基本的に原作に忠実です。
ただ個人的に珠玉だと思っていた、2人が『かりん糖』をせしめに行くシーンが無かったのは残念。(実写でも違和感無かっただけに…)
シンガーソングライターの故・河島英五を配した事から歌うのかな?と踏みましたが『トキワ荘荘歌』のシーンもありませんでした。
─ふと、自分が飲んでいる時に河島英五とは酒繋がりのキャスティングだったのかな?と気付いた時、少し切なくなりました。
但し、無難ながら原作とはモロに違うシーンが1つ存在するので記しておきます。
主人公の2人が帰省先で気が緩み、漫画が描けなくなって途方にくれるシーンで届く手紙の意味合いが、原作とは正反対になってしまっています。
原作では『一体貴君達に何があったのですか? 僕もみんなも心配しています、貴君達の家はトキワ荘です』と2人に呼び掛け、戻る決意をさせる訳ですが…。
ドラマでは2人がトキワ荘に戻る決意をするきっかけも全く違う出来事となっており、手紙の内容は『一体、貴方達は何を考えているのですか!』と余計な重圧をかけるものに。

・赤塚氏
原作では『明るく社交的』とされていますが、ドラマでは当時の赤塚先生と対比させる為か、大人しい面を強調しています。
ただ、コンビである石森氏役・石森先生の実子、小野寺丈氏に代わって演技をしているような印象があり、なかなかエキセントリックで面白かったです。
水浴びシーンで水をかけられて『いい〜ん!!』とか叫んだり、体を張った演技をしていた印象があります。(笑)
終盤、部屋で一人『ボーイさんの真似事』をしているなど、かなり通好みの美味しい演出もありました。
(まんが道では触れられていないが、なかなか芽が出ず好きな事ができなかった初期の赤塚氏は、本気で漫画家をやめようとまで思いつめる。
その時、転職先として考えていたのが『喫茶店のボーイ』であり、この事をテラさんに相談した所、アドバイスと共に引き止められ漫画家を続ける決心をする)
このエピソードを知らない人にとっては単にふざけているだけに見えるのですが、トキワ荘関連の話を熱心に漁った人はニヤリとできます。

・石森氏
原作と同じく、赤塚氏と常につるんでいるように描かれています。
演技云々よりも、やはりご自身の実子が演じているだけあって、素で似ていると言う所が最大の見所だと思います。
特にネタバレ要素は無いです。 赤塚氏と同様、トキワ荘マニアにとって美味しかったシーンは『シネスコ漫画』でしょう。
藤子先生の描いた『トキワ荘物語』中で語られた、見開き2ページにワイドな横長のコマを描くと言う、実験的(映画を意識)な漫画の事です。
ドラマの中で、このエピソードが丸々使われていました。

・角田氏
この人も、かなり美味しく演じられていたと思います。
原作では職務質問のように(笑)勢い良く話し掛けてくる登場シーンは、オカルト漫画の巨匠を意識させる不敵な雰囲気にされています。
喋る台詞自体は同じものですが、そのニュアンスの違いは必見です。 『それじゃ…フッ』とか言って立ち去ります。
また、苦労をにじませるあのエピソードが、より壮絶に演出されている辺りが原作ファンの見所ではないでしょうか…。(^^;
原作では『10ヶ月かかった』とだけ語られた、新桃太郎の書き直し回数が『丸1年かけて30回以上ダメ出しされた』と地獄のように水増し。
気合いの入った再現シーン。
島田敬三先生は(まんが道に)そっくりで雰囲気も良いが、原稿をバサっと投げたり、お許しを出すシーンを描かないため、もはや鬼。
そして角田氏はハードワークに耐えかね、ついには倒れるのであった…!
や、やりすぎ、やりすぎ!!と、原作ファンはつっこまずにはいられないはずだ。(笑)

・森安氏
実に美味しい。 まず、俳優の雰囲気からして絶妙に似ている。
常に落ち着きが無く、原作ほど露骨にたかる事は無いが食べっぷりも見事。 アドリブっぽい、自然な演技が小気味良いです。
テラさんの部屋@新漫画党結成にて、主の居ぬ間に豪快に煙草をふかしている所も原作に無いシーンでありながらキャラを心得ているのではないでしょうか。
個人的に残念だったのは『こども漫画集団…だめかねえ…』が無かった事。 その代わり、テラさんを『総裁!総裁!』囃し立てています。
以下、劇的に変わっている点を記します。 心して読みましょう。(笑)
ラストにそれぞれの将来を暗示させていく中、最後の最後で森安氏がトキワ荘を出る決意を語る。
『突然だが、実家へ帰る事にした』
『家業の手伝いをするために』
『…漫画はどうするんだ(byテラさん)』
『一から出直すよ… 米作りを手伝いながら、田園漫画でも描くさ』
…と、ドラマチックなやり取りが創作されています。
実際、森安氏がトキワ荘を出た話ではテラさんに滞納し続けた家賃6ヶ月分を押し付け、大家さんには『ちょっとそこまで』と言い残し、一気に岡山へ逃げてしまったと言う、開いた口が塞がらない大逃亡となっています。
(参考…トキワ荘青春物語・御本人の回想より抜粋)
よくよく考えると岡山で米作りと言うのもちょっと合わない、と感じた視聴者もいたのでは…。
しかし、こんな複雑なエピソードがあるように(^^;ドラマでは実に美しいまとめ方となっておりました。


・その他の方々

下宿先の須賀一家…ムッツリしている伊東四朗はお父さんにソックリです、必見。 ただ、伊東氏のキャラが勝ってしまった所があるような。(笑)
ちょうど10年ぐらい後に、まさか喪黒福造になっていようとは思いもしなかったでしょう。(^^;
年頃の幸子ちゃんとかチータが演じている世話焼きのお母さんも原作以上に活躍してます。 たつお君は普通に喋ります。(笑)

坂本氏…『坂木四郎』と言う仮名になっています。 キャラは原作同様ストイック、かつミステリアス。 フェードアウトも潔い。

風ちゃん…はっきり言って『かわいそうな扱い』に尽きます。 個性を発揮するシーンは一切なく、存在すら危ういぐらいになってしまいました。
「でぜにー」云々はダメだったのでしょうが、せめて小池さん並のパーマでもかけて異様な存在感を示して欲しかった…。(^^;

永田氏…なぜか悪戯っぽい、やたら可愛らしいキャラになっている。 面影皆無、ますます謎。
って言うか…なんか欽ちゃんファミリーが異様に多くないですか?
いえ、当時は物心がついていないので、どのぐらいブームだったのかわかんないのですよ…。


…以上、お粗末様でした。m(__)m
by Wagtail 2006/12/31




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