『愛しり』って?
〜「まんが道の続編」と言われる『愛…しりそめし頃に…』について〜
タイトルのまんまです。 現在も連載が進行している『愛…しりそめし頃に…』。
「まんが道の正統な続編」と言ううたい文句が気になっているまんが道ファンの人向けに相違点を書いておきます。
まず、純粋なまんが道ファンの人は「まんが道の続編!」と言うコピーはあまり鵜呑みにはしない方がいいです。(^^;
まんが道が先のわからない物語として描かれていたのとは違い、『愛しり』はA先生自身のトキワ荘生活回顧録と考えた方が正確ではないでしょうか。
以下、気になっているものの読んでいないと言う人に向けて『まんが道』と『愛しり』の戸惑いがちな相違点を書いてみます。
当然ネタバレ満載なので、何も知らずに読みたい!!と言う方は避けてください。m(__)m
「ロケット君」一本のみと言う連載状況こそまんが道(春雷編)を引き継いでいますが、生活状況や仲間達のキャラクターは微妙に異なっています。
まず主人公2人の容姿からして激変しています。 満賀にはいきなり髪が生え(笑)、才野は非常に地味な顔立ちになってしまいます。
とは言え、あくまで自分がパッと見た時の印象は「実在の2人に近付いた」でした。 むしろ架空の名前が浮くぐらいリアルになっています。
ちなみに満賀は髪型だけでなく、目付きも純真な子供を思わせる真ん丸型からタレた半月型になり、どことなくイヤラシイ(A先生調)印象になりました。
それが『まんが道』とは異質の『愛しり』と見事にマッチしているのが凄い所なのですが。
他、大きな違いのあったキャラと言えば名前自体が変わってしまった森安氏。
『森安なおや』→『風森やすじ』とほぼ違う字面になってしまったにも関わらず、あまり変わっていないように感じる響きはさすがです。
また、まんが道時代には全編曇りっぱなしだった眼鏡が透けているのも目新しい所でしょうか。
個人的に森安氏が好きなので注目しすぎかも知れませんが、ただ目が描かれているだけで年相応…20代前半の若者に見えるようになった気がします。
全員若者だと言う前提はあっても、森安氏だけ年齢不祥に感じていました。(笑) 背景などで眼鏡が曇ってる人=中高年みたいな描写を刷り込まれていたような。
眼鏡が透けてパワーアップしたのか、ナンパ目的で歌声喫茶に通うわ、邪な気持ちをはらませつつヌードデッサンに行くわ、水無しでフランスパン2本をバリバリ貪り喰うわと、痛快な活躍は続きます。
…が、若気の至りの反動か突然水を打ったように出てこなくなる事もよくあります。
この『風森氏』とも関係があるように、少年誌から青年誌へ移った事によってキャラ達の「大人の男」らしい言動やテーマが一気に増えます。
「ぼくら」の牛坂編集長に連れられて入ったキャバレーの一番人気の女性(ヒト)に心を奪われっぱなしになる満賀。(石森氏のお姉さんが登場する間は脳内二股です(^^;)
自分だけの行きつけの飲み屋があるテラさん。(テラさんの存在感も『まんが道』の頃と絶妙に変わり、漫画以外のプライベートを持っています)
つのだ氏は漫画の事だけを真剣に考える堅物な人物像から、砕けた後のキャラに変わっています。 顔立ちも微妙に違います。
また、回顧録らしく将来を見通し過ぎ?な発言や伏線も時々飛び出すため、ライブ感のある『まんが道』と同じ感覚で読もうとすると肩透かしがあります。
『ハハハハ、その頃にはテレビジョンも開発されて……』『もしかしたら”なんでも鑑定”なんて番組ができてたりして。』
…手塚先生! いくら神と書いてGODでも未来の世界を正確に言い当てすぎだと思います!(笑)
いえ、こういうA先生のちょっと天然な部分がファンにとっての面白味になるのですが。
また、当たり前ながら最大の違いと言えば『絵』です。
まんが道連載当時の絵とはタッチが変わっている他に、トーンやCGが多用されています。
これはアシスタントが自由にやっているのか、A先生自身が指定しているのか謎ですが、時々すさまじい表現がポンと出て来る事しばしば。
『まんが道』と同様、悪夢にうなされる事の多い満賀ですが、夢の中でロケット君打ち切りを宣告され、いきなりリアルになってしまう彼の姿は壮絶です。
今、これを書くために愛しり1巻を引っぱりだしましたが何度見てもやはり驚きます、怖いものは怖いです。 コピぺで回転してる辺りも…。(笑)
他にもアニメ論を語る風ちゃんの手の残像がトーンで何本も書かれてブワブワしてたり、文字通り漫画の主人公になりきったまま考え込む満賀など、感性の合う人なら悶絶してしまうシュールなシーンが多々あります。
『まんが道』と方向性は違いますが「何気ないコマなのにツボに入ってしまう」「シリアスなのに(むしろシリアスすぎて)何故か面白い」なんて要素は満載のままです。
そういう訳で、『まんが道』のみのファンでトキワ荘周辺には関心が無い人などは場合はやや退屈かも知れませんが、A先生自体のファン、またトキワ荘および昭和の空気に触れてみたい人にはお勧めです。
by Wagtail 2006/12/29
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